なぜ、理事長のNPOは、発展途上国の早産児を助けることを考えているのか。

国際保健

こんにちは。

今日は、文献の紹介ではなく、なんで理事長のNPOは、早産児のことを問題としているのか、ということをお話します。

普通に、赤ちゃんを助ける、でもいいような気がしますよね。

発展途上国のような厳しい環境で、未熟児なんて助けたって、意味ないんじゃないか。

普通に生まれた赤ちゃんだって、生き延びるのが大変なのに。。。。

と思われる方も多いと思います。

確かにそのとおりです。

漫画コウノドリではないですが、「お産は奇跡」、です。普通に生まれてくること自体、大変なことです。

しかし、世界の統計を見てみると、赤ちゃん全体の死亡率を減らすためには、早産対策をすることが最も効果的であることがわかってきます。

このあたりのことをお話しします。

本題に入る前に、いくつか言葉の定義を書いておきます。「早産児」とは、妊娠37週未満で生まれた赤ちゃんのことを言います。また「新生児」とは生後28日目までの赤ちゃんのことを言います。

こどもの死亡リスクは生まれてすぐが一番高い

現在、世界で250万人の赤ちゃんが毎年死亡しています。

日本で1年に生まれる赤ちゃんの数が、大体90万人きるくらいですから、約2年半分の日本の赤ちゃんが毎年亡くなっている感じですね。

なんともすごい数ですが、実は、こどもの死亡数は世界的にみてかなり改善しているのです。

次のグラフをみてください。

United Nations Children’s Fund (UNICEF). Levels & Trends in Child Mortality: Report 2018 -Estimates developed by the UN Inter-agency Group for Child Mortality Estimation. Unicef/Who/Wb/Un. 2019:1-32. doi:10.1371/journal.pone.0144443.

注目していただきたいのは黄色い線と赤い線です。

黄色い線は5歳未満児の死亡率と死亡数、赤い線は新生児の死亡率と死亡数を示しています。左のグラフが死亡率、右のグラフが実際の死亡数です。

このグラフの「死亡率」ですが、1000出生に対して、何人の赤ちゃんの死亡があったのか、を表したものです。国際比較をするときによく使用する指標の一つです。

左のグラフの黄色い線、つまり5歳未満の子供の死亡率は、1990年に93人(対1000出生)だったのが、2018年には39人にまで下がっています。同様に、実際の死亡数もかなり減っていますね。

左のグラフの赤い線、つまり新生児死亡率は、1990年に37人(対1000出生)だったのが、2018年には18人にまで下がっています。こちらも同様に、実際の死亡数も減っています。

ちなみに青い線は、5歳から14歳までの死亡率を示しています。こちらもほぼ半減していますね。

しかし、よく見ると、5歳以下の子供の死亡率減少するスピードに比べると、新生児死亡率が減少するスピードが緩やかであることがわかります。

つぎのグラフをみてみると、よくわかります。

United Nations Children’s Fund (UNICEF). Levels & Trends in Child Mortality: Report 2018 -Estimates developed by the UN Inter-agency Group for Child Mortality Estimation. Unicef/Who/Wb/Un. 2019:1-32. doi:10.1371/journal.pone.0144443.

あおい棒グラフは、5歳未満のこどもの死亡率、赤い棒グラフは新生児の死亡率です。

青い棒グラフが減っていくスピードに比べると、赤い棒グラフが減っていくスピードが緩やかなのがわかります。

その結果、1990年には5歳未満児死亡に占める新生児死亡数の割合は約40%であったものが、2018年には47%と上昇してしまっているのです。

5歳未満児の死亡率が減少したのはいくつか理由があります。

なんと言っても、ワクチン摂取が広がったことの効果は大きかったと思います。WHOやビルゲイツの財団など、世界のリーダーたちが音頭をとって、途上国の子供にワクチン摂取を推進しました。

さらに、水やトイレなどの公衆衛生が改善してきたことも大きいと思います。

理事長も、1990年代後半にルワンダでトイレと水道を一生懸命に作っていました笑。

では、なんで、こどもの死亡を減らすためには新生児死亡を減らすことが効果的なのでしょうか?

それはこの新生児期を耐え抜けば、赤ちゃんが生存する確率が上がっていくから、というのが理由です。

新生児期、つまり生まれてから1ヶ月の時期の赤ちゃんの死亡率が最も高く、年を重ねるごとに死亡する確率が減っていきます。

具体的には、新生児期の死亡率は1000出生に対して18人ですが、1歳を超えると10人、5歳をこえると5人、というように、年齢がたかくなっていくと死亡率も減っていきます*。

逆に言うと、生き残るチャンスが増えていく、とうことですね。

ここまでまとめると、

世界の5歳未満死亡数は減ってきているが、その分、新生児期に死亡するこどもの割合が増えてきてしまった。生まれてすぐの時期が一番死亡率が高いので、この新生児期をなんとかしのげば、生き残るチャンスが増えていく、ということです。

*参考文献:United Nations Children’s Fund (UNICEF). Levels & Trends in Child Mortality: Report 2018 -Estimates developed by the UN Inter-agency Group for Child Mortality Estimation. Unicef/Who/Wb/Un. 2019:1-32. doi:10.1371/journal.pone.0144443.

こどもが死亡する原因は?

では、新生児時期にあかちゃんが死亡する原因で、一番多いのは何でしょうか。

次の図を見てください。

World Health Organization (WHO). Survive & Thrive. Tranforming Care for Every Small and Sick Newborn. Vol 29. Geneva; 2018.

この図は5歳未満のこども死亡原因を表していますが、一番多いのは、茶色のところで、preterm birth complications、つまり早産合併症で16%となっています。

つまり、早く生まれて未熟だから、というのが一番の理由です。

では、早産にならないようにする方法はないのか。

早産になりそうな状態のことを「切迫早産」といいますが、これが非常に治療が難しい病気です。

現在まで、切迫早産になりそうな妊婦さんに、妊娠期間を延長できる有効な治療方法はないのです。これは、日本を含めた先進国でも同じです。

また早産の原因も、実はよくわかっていません。

早産を防止できる有効な治療方法があれば、理事長たちもそちらに力を入れたいと思いますが、近い将来も含めておそらくそのような治療方法は出てこないと思われます。

そのため、私たちは、早産になってしまった赤ちゃんたちをいかに救命するか、にまずは資源を集中することにした、というわけです。

では、どうやって早産児を助けるのか?これについては、次回お話ししたいと思います。

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