もうオワコンだった「QCサークル」「カイゼン」が、国際医療分野で再び注目!?

国際保健

こんにちは。

しばらくICTガジェットのお話しが続きました。ヘルステックと言われるこれらの分野は今後の成長が最も期待される分野です。

しかし、それだけで母体や赤ちゃんの予後が変わるわけではないのも事実だと思います。

今回は、最新技術というよりは、もう日本では忘れられてしまった感のある、「QCサークル」についてのお話しです。80年代、トヨタやソニーをはじめとした日本企業が世界を席巻していたころは、「QCサークル」「カイゼン」はビジネス用語として、世界共通語となっていました。

今や見る影もない日本企業ですが、この日本の「カイゼン」アプローチは、途上国の医療分野でいま注目をあびつつあります。

論文は、2020年8月のThe Lancet Global Healthに掲載されました(こちら)。「カイゼン」活動を導入してみたら、低体重出生児と早産児の死産と新生児死亡リスクを減らすことができた、というケニヤとウガンダからの報告です。

研究期間は、2016年10月から2019年4月まで。

分析対象となったのは、1000gから2500gまでの新生児、または3000g以下の37週前に分娩となった新生児です。

アウトカムは死産か日齢28日での死亡率です。

参加したのケニヤとウガンダの病院20施設です。無作為に介入群10施設とコントロール群10施設に割り付けています。

具体的に、介入群ではどんなことをやったのかというと。。。

メインの活動は4つ。

1)記録をきちんととる

*データをきちんととる。たとえば、週数、アプガ~スコア、出生時体重、退院時の状態、をきちんとカルテに記載する。カルテもきちんと整理しておく。

*妊娠週数がわかるメジャーを渡す

*研究チームが毎月訪問してちゃんとデータがとれいている監督する

*カルテをしまっておく棚をつくる

*年に二回、データの質を評価して、関係者と結果を共有する。

日本人からすると、ん!???と思うような内容ですが、この「記録」ということが、途上国では一番難しかったりするのです。

2)セーフチルドレンチェックリストを記入する

チェックリストは以下のようなもの。

WHOのものは、うまれた赤ちゃん全般に使用するものですが、今回は早産に対応するように修正を加えた、とのこと。

*まず早産なのかどうか判断する、早産だと判断した場合ステロイド投与するか搬送するか決定

*後述するPRONTO研修に、このチェックリストの使い方を組み込んで練習する

こちらも毎月1-2時間の研修あり

3)医療の質向上グループ(Quality Improvement Collaboratives)をつくる

Quality Control Collaborativesと本文では言っていますが、昔日本ではやったカイゼンのQCサークルみたいな感じです。

*3-12人のグループを作って、どうやって質を向上させるか討論します。

*それぞれの国で全体会議をやって、意見交換みたいなことやる。

2週間に一回のミーティングと年間5回の研修がある。

4)PONTOというシュミレーション研修をする。

このPONTOというのは、日本でいうところのALSOと新生児蘇生法研修とを合わせたようなもの。もっと簡単にしています。

*人形をつかったシュミ~レーション研修。4日間コースで、5-6週間ごとに実施。

結果

介入群1447人、コントロール群1491人を対象に解析しています。

死産と新生児死亡を合わせた結果は、介入群で221人(15%)、コントロール群で347人(23%)で、介入群で有意に減少していました(調整後オッズ比0.66(0.54-0.81))。

実は、無作為に割り付けていますが、病院ごとの背景が結構違っています。

コントロール群のほうが、18歳以下の妊婦が少ない、帝王切開の数が多い、アプガースコア5分値が低い、などの差があります。一応、これを補正していますが、それでも結果は変わらなかったと。

背景にここまで差がでるということはコントロール群のほうが重症症例が多かったんじゃね??と思ってしまいますが。。

まあ、それでもカイゼン、QCサークルを早産対策につかってみた、という内容は面白いです。

さて、医療の質をあげるのに、カイゼンの5S(整理、整頓、清潔、清掃、しつけ)を導入するというアイデアは日本人の得意とするところです。

病院でもよくポスター見かけますよね。

ちなみに、ジャイカのホームページで5Sと打ち込んで検索すると、めちゃめちゃたくさんヒットします。

5S活動非常にいいのですが、日本の支援でこれを途上国支援に導入して、赤ちゃんや母体の死亡が減ったという話は聞いたことないよねー、と思って2018年の最新の報告書(こちら)を見てみると。。

ありました!日本のカイゼンで周産期予後が改善したという報告が!

スリランカの病院で、死産と新生児死亡(?)が減った、という記載がありました。

研究ではないので、詳細はまったくわからないのですが。。。

せっかく、これだけの税金をつぎ込んでやっているのですから、もう少し世界へむけて発信して欲しいものです。

まとめ

なんか最後はジャイカの批判っぽくなってしまいましたが。。

今回、理事長がお伝えしたかったのは、先進技術を使わなくても、もしかしたら、周産期予後を改善できるかもしれない、ということです。

最先端のICT技術を利用した医療は、確かに医療を大きく変えてくれるかもしれません。でも、実際、医療のレベルを上げていくのは、今回ご紹介したような地道な取り組みだと思います。

カイゼンは「文化」です。

医療の質を上げるには、最先端のガジェットを使うのではなく、文化をつたえることだ、というのが理事長の主張です。

今日はこのへんで。

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