こんにちは。
今回もThe Lancet Global Health の論説から(Published online January 28, 2021 https://doi.org/10.1016/S2214-109X(21)00003-6)。
日本では産科での適応がない、ミソプロストロール(サイトテック)という薬があります。産後の出血を止めるのに非常に有効です。日本ではオキシトシンという大変いい薬がありますが、これは点滴がないと投与できません。その点、このミソプロストロールというのは、錠剤であるため簡単に投与でき、しかも保存も常温でできるので、医療資源の乏しい途上国では非常に重宝する薬です。
いま、世界ではCOVID-19により母体死亡率が上昇しています。その理由は、ロックダウンなどにより病院にいけなくなってしまったから、ということが先日の論文でも述べれらていました。
産後の出血は一刻を争います。病院へのアクセスが困難になった今、医療にたどり着く前に死亡してしまうケースがあとを断ちません。
そこで、いま、この薬を、妊婦さん自身に持たせてもいいんじゃないか、という議論があります。
議論もいいけど、「何を待つ必要があるんだい??」と、著者たちは述べています。
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COVID-19により医療サービスを受けることが困難になり、母体、新生児、小児の健康(MNCH)は壊滅的な打撃を受けています。低所得国において、産後出血は母体死亡の最大の原因であり、COVID-19の影響によりさらに増える見込みです。
ミソプロストロールは、オキシトシンが投与できない場合、安全で非常に効果の高い代替薬です。錠剤であり、常温で保存でき、しかもなんと言ってもコミュニティヘルスワーカーや産婆などによって配ることができるし、なにより妊婦自身で使うことができる薬です。2020年11月に、WHOは、家で分娩する場合、あるいは助産師による分娩が困難な妊婦には、妊婦健診にきた時にミソプロストロールを妊婦に配るように、との提言を出しています。
COVOD-19などによって、必要不可欠な医療サービスを受けれない状況では、産後出血の予防のためにミソプロストロールの配布を強化すべし、というのは非常に重要な考え方です。
ミソプロストロールはいままで、医療へのアクセスがほぼない人道的緊急事態の場合に限って、配布されてきました。2014-16年のリベリアでのエボラウイルスのアウトブレイクでは、訓練されたコミュニティヘルスワーカーによりミソプロストロール入りの分娩キットが配布されました。ネパールは早くからコミュニティでのミソプロストロール使用を推進してきましたが、2015年の地震のときには、その政策をより一層強化しました。
このネパールでの取り組みは、今回のCOVID-19による危機において、さらに拡大されることになりそうです。COVID-19によるロックダウンの期間中、医療施設での分娩は49.9%減少しました。2020年5月、ネパールの保健省は、分娩施設に辿り着けない、あるいは、妊娠8ヶ月になる妊婦へのミソプロストロール配布を許可しました。
リベリアでのエボラ出血熱流行やネパールでの事例が示すのは、ミソプロストロールは医療システムが機能しなくなるような複雑な緊急事態においても、安全に配布できるということです。
どちらの例でも、訓練されたコミュニティヘルスワーカーが薬を配布するのに活躍しています。このように迅速にミソプロストロールを配備できたのは、政治的援助、前回の経験、そして産後出血予防のためにコミュニティレベルで配っていたという実績、があったから可能となったものです。
どちらの国でも、産後出血に対するミソプロストロールはオキシシトシンとともに国のエッセンシャルドラッグリストに載っています。
COVID-19の蔓延は、MNCHでさらなる成果を得るためには、革新的な方法が必要であることを示してくれました。
政府や政策決定者に要求されているのは、ガイドラインをもう一度見直して、すくなくとも今のこのパンデミックが落ち着くまでは、産後出血予防にミソプロストロールがコミュニティレベルで確実に配布されることを、担保することです。
コミュニティヘルスワーカーや伝統的産婆は、公的医療サービス提供の間隙を埋めるべき重要な役割を果たしています。彼らは、産後出血予防のためのミソプロストロールが入った分娩キットを、コミュニティに提供する役割を果たすことができます。
いまこそ、すべての女性が自分自身の身を産後出血から守り、お産で死ぬリスクを確実に減らすチャンスであると言えます。
ミソプロストロールは産後出血を防ぐことができ、女性の命を守ることができる薬です。
やることは明白なのに、「何をまつ必要があるのでしょうか?」
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