こんにちは。
2020年9月のThe Lancet Global Healthにこんな記事がでていました。
「サハラ以南アフリカ諸国では、酸素投与ができる施設がどのくらいあるのか。まずはデータの入手から。」(こちら)
記事は、これからの季節に流行るインフルエンザを見越して、そもそも基本的な設備である酸素投与はどれくらいアフリカで投与可能なのか、を把握して対策を立てておかないと大変なことになる、と言っています。
日本の病院にいくと、患者さんが入る部屋には、壁に酸素と空気の配管が通っていて、管を差し込むだけで投与することができます。このような中央配管設備は、低所得国ではほとんどお目にかかれません。
理事長がいたシエラレオネの病院では、首都に一つしかない母子3次救急病院でしたが、酸素や空気を投与するための、中央配管設備はありませんでした。
今回の記事では、酸素投与設備みたいな基本的なことが実はいままであんまり議論されたことなかったのでは、と指摘しています。
そもそも、いったどれくらいの割合で酸素投与設備がある医療機関があるのか、という基本的なデータすらありません。
一番正確と思われるWHOの調査結果WHO Service Availability Readiness Assessment (SARA) というのがあるのですが、それも毎年やっているわけじゃないし、すべての国でやっているわけではありません。しかも自由にアクセスできない!
著者たちは、入手可能なデータ(Democratic Republic of the Congo for 2016–17, Senegal for 2014–17, Malawi for 2013–14, and Tanzania for 2014–15)から酸素の入手可能度合い、設備の種類、供給状態について、分析を試みています。
その結果、これらの国々の医療施設の43.4%しか酸素供給と安定的な電力供給(酸素投与するために必要)がありませんでした。週に停電が2時間以下と回答していたのは、たったの36.8%でした。
当然ながら、停電がしょっちゅうおこる場所で、人工呼吸器に患者をつなぐことはかなり困難ですよね。
実は、調査に回答している施設の96.4%は酸素投与設備(ボンベ、酸素濃縮機、または中央配管設備)があると言っているのですが、問題なのは、回答していた施設は全体の6.9%程度だった、ということです。
これでは実体がまったくつかめません。これらの回答しなかった施設が酸素供給設備を持っていなかったと仮定すると、安定的に電力供給があって酸素投与できるのは3.6%、酸素投与だけでもできるのは12.6%程度まで下がってしまうと著者たちは推定しています。
例えばベニンでは、産科救急病院で酸素投与ができるのは29%、呼吸障害患者を受け入れるような病院においては、モーリタニアで21%、ニジェールでは8%と、惨憺たる数字です。
理事長がいたシエラレオネの病院では、酸素投与ができるベッドはたったの4つ。年間7000件の分娩と4000件の母体搬送を受ける病院で、です。
この病院では、最も重症な人が入れるHigh Dependency Unit(HDU)という部屋をイタリアのNGOの協力で作りました。
日本で言ったら、集中治療室(ICU)みたいなところです。しかしできることは限られています。そこでは酸素投与が、呼吸障害のある患者さんにできる唯一の治療でした。。。
中央配管など当然ながらありません。そもそも施設自体がすでに築100年くらいはたっているのか、と思わせるような建物です。改修工事も不可能だし、そんなお金もありません。
酸素ボンベは日本では簡単に入手できますが、途上国ではまず無理です。酸素を供給する業者がありませんし、ボンベを管理できません。危険すぎます。
そのためHDUでの酸素投与は、酸素濃縮機といって、電気を使って酸素を生成する装置に頼っていました。これがまたすぐ壊れてしまう。。それもそのはずで、停電が頻繁におこるので、その度に電圧が激しく上下します。これでは壊れるのも当然です。。。
それでも、現地では日本製の装置が壊れなくて重宝していました。どこのメーカーかは忘れましたが。
新生児のCPAPにも、この酸素濃縮機が使われています。この機械しかフローを作れないからです。
当然、必要のない高濃度酸素に赤ちゃんたちは晒されていることになります。しかも圧をかけるための機械ではないので、流量が十分なのか誰も検討していません。
というわけで、酸素投与すらもできない場所でいかに呼吸障害のベビーたちを助けるのか、が問題になります。
自発呼吸を助けてあげられるCPAPがあれば助かるような子たちが数多く死んでいきます。
現在、理事長の団体では、酸素や空気の供給がなくても圧をかけられるCPAP装置の開発に取り組んでいます。
きょうはこのへんで。
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