マラリアと慢心 その2

国際保健

さすがに発熱がつづているので、おかしいと思い、まずは近くの診療所を受診します。

この時期になってもまず疑っていたのは、コロナウイルスでした。

マラリアにしては、特に私の知っている熱帯熱マラリアにしては経過が長すぎるのです。こんなに長い経過であれば、とっくに脳性マラリアを発症して集中治療室に入院しているはずです。

なので、まずは近くの診療所でコロナウイルス抗原検査をしてもらいました。

どういうわけか、インフルエンザの検査はしてくれません。看護師がなんだか屁理屈を述べていましたが、結局、インフルエンザの検査はこのときしませんでした。

結果は陰性。コロナウイルスである可能性は低くなりました。インフルエンザにしては、やはり経過がすこし違うように思えたので、あえてこのときは検査せずに帰宅しました。

このときにジスロマックも処方してもらっています。咳嗽がひどく、気管支炎の可能性が一番高いと思っていたのです。

ところが、抗生剤を飲んでもまったく効果がありません。

診療所から自宅に帰ると、再び40度近くの発熱と腰から背中にかけての鈍痛に苦しむことになります。

この受診が木曜日でした。金曜日の朝になると少し解熱したので体が楽になりましたが、激しい咳と体の痛みで、一日中苦しんでいました。そしてやはり午後になると40度近くの発熱をくりかします。

土曜日の朝になると、抗生剤を飲んでもまったく効果なく、これはもしかしたらマラリアの可能性もあるのでは、と疑い始めます。

私はもう何度もマラリアに感染しています。すでに5、6回は経験しており、その度ごとんに点滴の注射薬で治療しています。日本では手に入らない薬ですが、世界では第一選択薬であり、WHOのガイドラインにそって、治療していました。

それでももしかしたら、薬剤耐性のあるマラリア原虫が体内に残っているかもしれない、と思うようになったのです。現地の人間と同じで、マラリアと共存するような体になっている可能性も十分あると考えたのです。

そこで、熱帯病の研究をしている病院を受診することにしました。幸い、知り合いが国際医療センターに勤めていましたので、紹介状を書いてもらい受診することとなりました。

それが次の週の月曜日でした。

月曜日に受診し、検査結果は四日熱マラリア、とのことでした。

熱帯熱マラリアほど危険な病気ではありませんが、やはりマラリアはマラリアです。入院して治療をすることとなりました。

入院当日の夜から内服薬のみの治療が始まりました。しかし、発熱は続いています。

入院3日目の午後から、さらに高熱となります。

高熱と腰から背中にかけての鈍痛がかなりきつく、身悶えしながら過ごします。

2日目の夜から3日目にかけて解熱せず、午後になってさらに高熱となったのです。

このときに思ったのは、これは自分の力では、もうどうしようもない、ということです。

この苦しみは、自分ごときのはからいによって何とかなるものではない、と思ったのです。

解熱剤を飲めば少しは楽になるかもしれない。ナースコールを押して、解熱剤をもらうこともできたのですが、なぜかそんな姑息なはからいでは通用しないと思ったのです。

この苦しみを、すべて観音様にあずける、そんな覚悟を思うようになっていました。

マラリアの苦しみなど、たいしたことないかもしれませんが、40度の熱で口から何もとることができず、どのような態勢をとっても身体中の痛みがとれない。

そう思っていると、医師団が病室にやってきました。たしか午後5時をすぎた頃だと思います。

血液検査の結果を教えにきてくれていたのですが、そんなことは耳に入りません。

その医師たちに、私は解熱剤と点滴をお願いしていました。

これは、おそらく観音様がくれた機会なのに違いない、と思ったのです。苦しみを取り除くチャンスをくれたのだと。

かなり呼吸数も早く、発熱で苦しんでいるのですから、まずは医師が自分で状態を確認するのが基本だとは思いますが、若い医師ではそこまで臨床能力がないのか、私がお願いするまで、何もするつもりはなかったみたいです。看護師は当然ながら、言われた時刻にしか、体温をはかろうとしません。こんなに熱がでて、苦しんでいても、です。

しかし、それが私にチャンスをくれたのでしょう。苦しみを耐えるということは、この苦しみも含めて自分自身を観音様に委ねることなのだと思ったのです。

看護師が点滴をとりにきたのが、午後6時。お願いしてから1時間近くもたっていました。

そこから解熱剤の点滴がはじまると、嘘のように体が楽になっていきました。まだ体温は39度以上あったのですが。

体の痛みが楽になったと思ったあとのことは、あまり覚えていません。

すぐ眠りに落ちてしまったみたいです。夜中にトイレで2回ほど目が覚めて、汗をかいたシャツを着替えて、あとはひたすら眠っていました。

次の日の朝、もう熱はありませんでした。食事もできるようになりました。

その日の採血結果で、マラリア原虫は体内から駆逐されたことがわかりました。

入院4日目は1日発熱なく過ごしましたので、次の日には退院となりました。

これが私の入院経験です。

私の苦しみは、マラリア感染によるものでしたから、世の中で溢れている苦しみに比べてれば、それほど大きいものではなかったかもしれません。

いま、中東のガザでは、多くの人たちがとても耐えられないような苦しみを経験しています。

この苦しみを耐えることは、それこそ、人間一人の力では無理なのです。

人が生きていくということは、苦しみ以外の何者でもありません。お釈迦さまのおっしゃった通りです。その苦しみを、自分一人の力で乗り越えることができる、ということが、慢心なのです。

今回の件で、慢心について色々と考えさせられました。

一つは、自分のほうがマラリアに関してはよく知っているという他者と比較する慢心

二つ目は、病気も自分の体力で治すことができると思っていたという慢心

そして三つ目は、苦しみは、自分一人の力で耐えられると思っていた慢心

その他、執着や、自分一人で生きているわけではなく他者に迷惑をかけなければ何もできない、といったことが身に沁みてわかったような気がします。

今日はこのへんで。

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