前回に引き続き、ホンジュラス国のお話になります。
今回は、まったく超音波を触ったことのない医療従事者、おもに研修医と看護師さん、を対象にして、産科超音波の研修をしてみた結果をお話します。
今回のお話は、2018年の第33回国際保健医療学会で発表した内容になります。
エコー教えてみた!
この研究は、2013年から国際協力機構JICAが支援している家庭保健チーム導入というプロジェクトの一環で行いました。この家庭保健チームというのは、医師、看護師、プロモーター(村落開発員みたいな人)からなる訪問診療を行う医療チームのことです。
さて、今回は、この家庭保健チームから、若い研修医6人、看護師6人に集まってもらい、2週間の産科超音波トレーニングをしてみました。内容は、産科超音波に絞って、教える項目も、頭位かどうか(赤ちゃんの頭がしたかどうか)、多胎(双子じゃないかどうか)、胎盤はどこにあるのか、そして予定日を決めるための胎児計測、の4つです。
トレーニングの講師は、理事長と現地の放射線専門医の2人で行いました。
2週間のトレーニングが終わった後、かれらは自分の受け持ちの地域に戻って、訪問診療を行ってもらいました。
訪問診療で集まってもらった妊婦さんに、研修医または看護師が胎児エコーをします。その後、同じ妊婦さんに、理事長が胎児エコーします。
理事長のエコー所見と、かれらのエコー所見がどれくらい一致しているのか、をみてみました。事前に口頭で許可を得られた妊婦さんのみ対象としています。
全部で33人の妊婦さんをエコーしました。
頭位かどうか、に関しては、理事長と研修医たちの間の診断は完全に一致していました。また胎盤の位置も、完全に一致していまいした。また前置胎盤1例、双子1例見つけています。
2週間のトレーニングしか受けていなくても、赤ちゃんの頭が下にあるかどうかと胎盤の位置、はほぼ100%わかった、ということですね。
さらに、胎児の計測値がどれくらい一致しているのかみてみました。
すると、胎児大横径(BPD)といって、赤ちゃんの頭を計測することに関しては、かなり高い一致率を示していました。
さらに、赤ちゃんのお腹周り(AC)、太腿骨の長さ(FL)もそこそこ一致していることがわかります。しかし、週数が早い赤ちゃんの場合、胎児頭殿長(CRL)の計測はまったくできていないことがわかりした。
これは2週間のトレーニング期間中に、あまり妊娠初期の妊婦さんを実際に自分でみてみる機会が少なかったことが原因だと思われます。妊娠初期の妊婦さんを見つけるのは、マジで大変なことなのです。
このときにエコートレーニングに来てくれた研修医たち
実は、このJICAのプロジェクトで導入したエコーですが、現在ほとんど使われていません(泣)。
いろんな要因があります。壊れしまうと修理ができない、とか。あるいは、せっかく教えた研修医たちが、1、2年もすると他の地域に移動してしまう、とか。
エコーをきちんと使用できれば、妊産婦死亡や新生児死亡が減少するかもしれないのですが、まだまだ課題は山積みです。
超音波装置は機械ですから、当然壊れます。トラブルが発生します。
例えば中国製の現地でも手に入るような機種を選べば、代理店がある程度のアフターサービスを保証してくれます。とは言っても、こちらで修理できるかどうかはまた別問題ですが。。
おそらく部品は輸入になりますので、コストと時間がどれくらいかかるかわかりません。
今回使用した携帯型エコーは、修理できません。
代理店なんてないし、不具合が発生したら取り替えるしかない。それでも窓口があればまだいいですが、プロジェクトが終わってしまえば、もう誰が面倒みてくれるのかわかりません。金の切れ目が縁の切れ目ではないですが、JICAが相談窓口になって、アフターサービスをしてくれるなんてことはありません。
それ以外にも、問題はあります。エコーの時に使うジェリーやペーパータオル、なんかも必要です。あるいは、僻地に行く時のガソリン代とか。誰が費用を出してくれるのか。
そんなことが重なれば、壊れたらもうおしまい、それで埃をかぶっていることは、十分考えられます。
しかし、そんなことは、まぁ二の次と言いましょうか、理事長にとってはそれほど重要ではないのです(税金つかっているので、怒られそうですが。。。。)
今回の研修をやってよかったとおもうことがあります。
今回超音波のトレーニングを受けた、研修医のルイスくんやアレハンドルくんが理事長にこんなことを言ってくれました。
「妊婦健診受けにこい、って言っているけど、みんなこんな思いして歩いてくるのか、ということがわかった。そして、そんな思いをした妊婦さんたちを助けてあげれる力を持っているのは自分たちなんだってことを実感できた」
研修医なんて、まぁ世界中どこでも同じですけど、クソミソに扱われます。
彼らがエコー使って疾患を見つけたって、大きな病院の医者はまともにとりあわない。まあそれも当然で、ここで行われている医学教育なんてたかがしれいているし、エコーの訓練ができるチャンスなんてほとんどありませんから、研修医のしたエコー所見なんて誰も信じない。
そんな彼らが初めて、母親の命や子供の命を助けることができると実感できた。
そして、もうひとつ。一番かれらの力を必要としている最も弱い存在は、簡単には見つけることができないという事実を知った、ということです。
今回、エルパライソで研修した時に、ボランティアでわざわざテグシガルパからきてくれた研修医の一人がこんなことを言ってました。
ある時、田舎で妊婦健診していたので、ついでにエコーもしてあげるって言ったそうです。でも、その妊婦さん、断ったそうです。
なんでだと思います?
実は、貧困や僻地にいる人にとって、エコーをはじめとする西洋医学は、怖い存在、ということです。
貧困に生きる人々にとって、医者や医療は何されるかわからない怖い存在、ということです。でも、母体死亡や新生児死亡がおこるのは、まさしくそういう僻地なのです。
彼女、つまり研修医ですが、ゆっくり時間をかけて説得したみたいですが、彼らにそんなこと勉強する機会はもうないでしょう。優秀な医者になれば、ただでさえ忙しいわけです。大都市の病院で働けば、それはもう忙しい。病院にくる人たちをさばくので精一杯でしょう。もうそんな時間はない。
貧困にある人たちは、最も医療を必要としているが、彼らに医療をとどけるのは難しい。
なぜなら、恐れ逃げるから。かれらに届くのは難しい。
この事実がわかってくれた、若い研修医たちが。
これが、一番よかったことです。
別に、エコーがどうこう、持続可能性(sustainablity)がどどうこうなんて、どうでもいいことなんですね。
私たちが教えてあげたことは、ほんとにわずかです。エコーで赤ちゃんのみかたをちょっと教えて、まあそれ以上のことは何もしてないなです。そんな技術や知識なんかより、よっぽど大切なことを彼らは学んでくれました。
みんながみんな、この研修医たちと同じわけではないです。まぁ今の所4人かな。。。
でも、それで十分です。理事長がプロジェクトに関わって3年ですけど、3年かけて4人です。。。。
プロジェクトの効果を計る指標なんかには、ちょっと反映しにくいですし、費用対効果で測ったら、そりゃー、税金投入してなんだこりゃ!って言われると思います。。。泣
再現性もないかもしれませんね。今回は色々いい環境があっただけかもしれません。素直な研修医たち(日本とは大違い、なんてね)、それから実は協力隊の存在なんかも大きかったかもしれません。
なんと言っても、私の我儘に嫌な顔せず付き合ってくれた現地の日本人スタッフ(アイシーネットの方々)の協力が大きかったと思います。でも、全部たまたまです。
だから、これから他の地域で、同じようにうまくいくかと言われればまったくわかりません。でも、まぁ、開発というか援助協力なんて、そんなものかもしれません。持続可能な発展を目標としている国際機関とは正反対の道かもしれませんね。
途上国で活動した結果がうまくいくかどうかなんて、それこそ神様の御意志次第、なんじゃないかな、と理事長は思っています。
というわけで、ホンジュラスのエコー編はおしまいです。
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