中米の国ホンジュラスで試してみた!基本的な産科超音波技術は低コストスマホ型超音波でも短期間で習得可能だった。

国際保健

今回は、理事長のNPOが、中米の国ホンジュラスで、スマホで操作できる低コスト超音波診断装置(エコー)が、現地で実用可能かどうか調べてみた結果を、お伝えします。

結果は、低コスト低解像度のスマホ型エコーを使用した児頭大横径(Bi-Parietal Diameter: BPD)の計測は、エコー初心者でも1日で習得可能であることがわかりました。さらに、一度習得した人が、他の医療従事者にエコー技術を伝達させることも可能である、ということもわかりました。

スマホ型低コスト超音波診断装置とは。

上の写真のように、スマホがエコーのスクリーンになるような超音波装置です。エコーのプローブ(超音波の出るところ)のコードをスマホの充電ポートに接続して、アプリを起動すれば、あなたのお手持ちのスマホがエコーに早変わりします。

理事長のNPOが使用しているのは、レキオパワーテクノロジー社製のものです。沖縄に本社がある日本のメーカーです(HPはこちら)。

値段は、大きな病院で使うような従来の高価な機器(数千万円)よりかなり安く製造でき、二十万円程度で調達可能です。問題は、今のところアンドロイドでしか動かないことと、厚生労働省の医療機器認証がとれていませんので、日本では医療用に使用できないこと、です。

しかし、従来の据え置き型のドデカいエコーの機械に比べればはるかに手軽で、しかも安価です。このスマホ型のエコーが途上国で普及して、こちらから医療従事者が村まで出かけて行って、村で胎児エコーをしてしまう、なんてことができれば、診療所までの距離が阻害要因となっている妊婦検診受診率の低さも改善する可能性があります。

今回は、そんなスマホ型低コストエコーを使って、エコー初心者が胎児の頭を計測する方法(BPD)を習得できるかどうか、ということを試してみました。

なんでエコーが必要なのか?

日本では当たり前のようにつかわれるエコーですが、まだまだ途上国では一般的な検査ではありません。日本の妊婦検診では全部で14回くらいありますが、そのうち10回以上エコー検査をすると思います。こんなに産科エコーばかりしている国は日本くらいではないでしょうか。

エコーは、産科では様々な用途に使われます。が、産科的にエコーが一番効力を発揮するのは、予定日を決定する時です。それ以外のことは、そんなに重要ではありません。強いてあげれば、逆子とか双子を発見する、あるいは胎盤の位置を特定する、ことくらいでしょうか。

このブログでは、何回もお伝えしていますが、途上国では予定日がはっきりわかっている妊婦さんは、ほとんどいません。予定日がわからないと、赤ちゃんの在胎週数がわからない。そうすると、小さく生まれた赤ちゃんが早産なのかどうか、がわからないのです。

あらかじめ、早産でお産になりそうだ、ということがわかれば、未熟な赤ちゃんを助けることができる医療施設にお母さんごと運ぶことができます。ちなみに日本では、そのような母体搬送システムが出来上がっていて、周産期母子医療センターという施設が、早産でうまれそうな妊婦さんを受け入れています。

胎児の頭の大きさを計測する、つまり児頭大横径(BPD)、は22週ころまでなら、比較的在胎週数を推定するのに正確だ、と言われていました(しかし、前回ご紹介した論文では、結構ずれていましたね。。。。。泣)。

色々批判はあると思いますが、私たちは、ひとまずこのBPDを計測することによって、分娩予定日が決まってない妊婦さんでも、ある程度予定日の推定ができないだろうか、と考えました。

児頭大横径(BPD)

問題は、このBPDも計測するにはいろいろ条件を満たしたエコー断面像を描出することが必要、ということです。これが意外と難しい。どこでも胎児の頭なら好きなところを計測していいいわけではないのですね。そこで今回は、1)どうやったら、簡単で効果的にエコーを学習することができるか、2)開発した教育方法が実際に使えるかどうか、ホンジュラスで試してみる、という構成で研究することにしました。

スマホ型低コストエコーは、やっぱり画質は劣っています。なので、正確にすべての定義をみたした断面を描出するまでには、かなりの技術をようすることが予想されました。

いろいろ検討した結果、視床という部分の形に着目しました。この部分の形が左右対象な台形になっていれば、定義上のBPD計測断面で計測した値とほぼ一致することがわかりました。

この視床だけちゃんと描出できるようなトレーニング方法を開発して広めれば、画質の悪いスマホ型低コストエコーでも、BPDを計測して赤ちゃんの在胎週数の推定ができるのではないか、と予想しました。

実際にホンジュラスで試してみた!

日本からNPOの理事の一人が現地に行って、臨床研究として倫理委員会に申請を行い研究を実施しました。実際に、研究をおこなった場所は、テウパセンティ市とトロヘス市の2箇所です。超音波を使用したことのない医師、看護師、准看護師計8人を対象としました。期間は、2019年8月から9月にかけて、約1ヶ月間です。トレーニングは1日で終わるスケジュールです。

日本から行った医師が正解となるBPDの計測値をだします。

それを基準として、上記の4人に実際に妊婦さんを計測してもらい、計測が成功したかどうかを判定していきます。習熟度の判定には、LC-CUSUM法を使用しました。

上のグラフでは、上段がLC-CUSUM法を示しています。この方法を簡単に言ってしまうと、成功するとプラスのポイント、失敗だとマイナスのポイントがついていきます。正解が続いて、プラスのポイントをもらえれば、右肩上がりのグラフになっていきます。ある一定の値までくると、そこで習熟したと考えられます。

下のグラフは、計測が終わるまでにかっかった時間を表しています。だんだんと短くなってきているのがわかります。

結果は、習熟に要した症例数は、被験者1番は53例、2番は43例、3番は43例、4番は47例でした。

つぎにこの中から一人ボランテイァを募り、別の場所、トロヘス市、でこの技術を講義してもらうことにしました。

やり方は、4人のエコー初心者に集まってもらい、ビデオをみた後、ハンズオン練習をする、というものです。

唯一違うところは、講師役がテウパセンティの看護師さん、ということです。

トロヘスでの結果も、テウパセンティと大きく変わらず、被験者1番は35例、2番は49例、3番は46例、4番は49例でした。

テウパセンティもトロヘスも、習熟に要した症例数の中央値は、47症例で、差がありませんでした。つまり、一回技術を習得したテウパセンティの人間は、同じ様に1日でトロヘスの人に技術を移転できるようになっていたことを示唆しています

一回できるようになると、胎児心拍や胎位をしることも可能となりました。また、このトレーニング方法であれば、技術移転も容易にできることがわかりました。

現在、理事長のNPOでは、さらに遠隔医療にこのスマホ型低コストエコーが使えないかどうか、システムを開発中です。

コロナ後の世界では、先進国においても、遠隔で医療をおこなうことがますます増えれてくると思われます。その技術はそのまま途上国にも応用可能ではないかと考えています。

スマホエコーを使った遠隔妊婦健診。使用経験がある程度たまったら、まとめてこのブログでまたご報告いたします。

今日はこのへんで。

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