妊婦さんは新型コロナウイルスに感染すると重症化することが、最近の報告からわかってきました(こちら)。
新型コロナウイルスは、血栓傾向が強くでることが知られており、ただでさえ血液がかたまりやすくなっている妊婦さんは、リスクが大きくなることが予想されています。
今回は、新型コロナウイルスに感染し、急激な凝固障害を呈した妊婦さんの症例報告と、妊婦さんではないのですが、重症化した人の抗体を調べてみた、という内容の論文を取り上げます。
論文は、journal of thrombosis and haematosis 2020年4月に掲載(こちら)。
症例1 40歳 2経妊1経産。既往歴としては、好中球減少症を指摘。入院4週間前からGCSFを使用したいた。妊娠糖尿病と軽い呼吸器感染を合併していた。35週3日、咳と発熱を主訴に入院。血圧正常、頻脈(110-121/分)、体温39度、SpO2はルームエアで保たれていました。胎児心拍、成長は問題なし。Piperacillin/tazobactam タゾシン投与開始し、GCSFの投与は継続。PCRにて新型コロナウイルス陽性。胸部レントゲンは正常。入院後48時間に、血小板減少(8万2千)、フィブリノーゲン減少(2.2g /L)、APTT上昇(41.0秒)、D-dimer(25.9mg/l)、ビリルビン(6μmol/l)、AST /ALT(50/20IU)が認められた。
入院2日目、凝固異常傾向を認めたため、脊椎麻酔ができなくなる前に娩出することに決定。脊椎麻酔科に反復帝王切開施行。術後出血1.5Lあり。子宮動脈結紮およびB-Lynch縫縮術施行。子宮収縮薬とトラネキサム酸2g、フィブリノーゲン4g、FFP10単位投与。術後12時間より低分子ヘパリン投与開始。凝固障害は術後2日目に改善。児は体重2.9kg、アプガ~スコア9/9。術後4日目に退院。
症例2 23歳 1経妊0経産。35週2日 38.6度の発熱と咳を主訴に入院。PCRにて新型コロナウイルス陽性。血小板減少、APTT延長、肝酵素上昇を認めたため母体搬送。既往として喘息あり。肥満(BMI>30)。血圧正常、尿たんぱく陰性。血小板5万4千、APTT60秒、D-dimer>20mg/l、フィブリノーゲン減少(0.8g /L)、AST /ALT(81/40IU)。胎児心音にてNon-reassuring fetal statusと診断され、全身麻酔下に緊急帝王切開施行。トラネキサム酸1g、フィブリノーゲン3g、を術前に投与。35週5日出生体重2540g。アプガースコア4/7。術後出血なし。低分子ヘパリン投与。凝固障害は術後1日目に改善。5日目に退院。
ポイントとしては
1)新型コロナウイルス に感染した妊婦の場合、急速に進行する凝固障害とともに肝酵素上昇を認め、HELLPと似たような血液検査初見を呈した。
2)分娩後、血液検査異常はすみやかに改善した。
3)非妊褥婦では抗凝固療法が予後を改善させているので、術後低分子ヘパリン投与は妥当。
4)D-dimer上昇、血小板減少、フィブリノーゲン減少は予後が悪くなるサイン。
ということでした。
新型コロナウイルス感染と抗リン脂質抗体
論文は、journal of thrombosis and haematosis 2020年7月に掲載(こちら)。
新型コロナウイルス感染において、動静脈血栓が形成されやすくなることはニュースでもやっていました。
この論文では、ICUに入院した重症患者において、血栓をつくる原因と考えられる抗リン脂質抗体がどれくらいみつかるのか、を調べています。
抗リン脂質抗体ってなんじゃ!?、と思う方も多いかと思います。
抗体とは体に異物が侵入したときに、異物を攻撃してくれるものです。
リン脂質とは、細胞膜を構成する要素で、身体中の細胞にあります。
そのリン脂質というのを攻撃してしまう、つまり自分の体を攻撃してしまう抗体のこと、とざっくり思ってくれたらいいと思います。
実は、この抗体は女性に多く、特に妊娠可能年齢にある女性に多いとされています。
なぜかこの抗体があると、血栓、つまり血管の中で血液が固まってしまう状態、を起こしやすくなってしまいます。
血管で血液が固まると、梗塞を起こします。脳、肺、腎臓、胎盤など至る所で悪さをします。とくに妊娠しても赤ちゃんが育たない不育症に重要な関連があるとされています。
このリン脂質抗体が持続的に検査で見つかる場合を、抗リン脂質抗体症候群といっています。
さて、このリン脂質抗体と新型コロナウイルス 感染の関連を調べているのが今回の論文です。
ベルギーからの報告で、期間は2020年3月から4月にかけて、ICUに入院した重症患者31人を対象に解析しています。
結論としては、
1)新型コロナウイルス 重傷者は、血液が固まりやすい状態にある。
2)これらの患者では、抗リン脂質抗体が陽性である場合が多かった。
3)重症者では、抗リン脂質抗体のうち1つが陽性であることが多かったが、一時的なものであった。
4)血栓形成との関連は明らかではない。
ということでした。
実際に検査したのは、ループスアンチコアグラント(LAC),坑カルジオリピン抗体( aCL IgG/IgM), β2グリコプロテイン抗体(aβ2GPI IgG/IgM )の3種類です。
患者の構成は、年齢中央値が63歳(38歳ー82歳)で、男性28人、女性3人でした。26人は人工呼吸器、5人はECMOでした。
結果は、31人中23人は上記のうち1つが陽性でした。16人はLAC1つ陽性。2人は3つ陽性。1人は1つ陽性。3人は抗カルジオリピンIgGとLAC陽性でした。血栓があった9人のうち7人は、3つの抗体のうちの1つが陽性でした。血栓がなかった22人のうち、16人は、抗体陽性でした。そのうち2人は、3つの抗体陽性でした。
1ヶ月後に検査できた10人のうち9人は抗体陰性になっていました。
血栓との関連はさだかではないですが、これらの患者はICUに入院した時点で、すでに低分子ヘパリンか、未分画ヘパリンの投与を受けているので、治療しなかった場合の血栓発症率はわかりません。
ただでさえ、血液が固まりやすい傾向にある妊婦さんは、新型コロナウイルス感染により血栓傾向がさらに増悪することが予想されます。
周産期での研究報告が望まれます。
今日はこのへんで。
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