こんにちは。
今回は、The Lancet Global Health Vol.9 Number 5, May 2021の論説から。
COVID-19は、他のヘルスシステム同様に、母子保健システムにも壊滅的な影響を与えています。
打撃をうけたシステムを立て直すために、今投資をしなければいけない。そして、それは今までの母子保健のシステムとは違った、より医療に公平にアクセスできるシステムを再構築するチャンスでもある、そんなメッセージです。
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国際保健の研究者の間では当たり前だが、妊婦、新生児、そして子供の健康（maternal, neonatal, and child health; MNCH）に投資することは、単にモラルの話ではありません。このランセットグローバルヘルスではよく見かける研究には、この投資がもたらすすばらしい価値そして、世代を超えた投資成果を示したものが数多くあります。だから、２０２１年３月に開催された、ベネチアフォーラム「なぜMNCHに投資することがコロナ禍以後の持続的な回復に重要なのか」で、多くのNGO、国際機関、大学などのオピニオンリーダー達がディスカッションしていたことは釈迦に説法のような気もします。
しかしながら、フォーラムでは、MNCHをめぐるもっと複雑な問題についてさらに深い議論が行われました。つまり、「なぜ資金を得るのにこんなに苦労しなければいけないんだ？」「どうやってもっと効率的に資金を使えばいい？」そして、「金をもっているやつらに、どうやったらMNCHに投資することは価値のあることだと説得できるのか？」などです。
COVID-19の前、MNCHはすでに追加の資金が必要でした。２０１９年は近年最低の記録でしたが、それでも５歳以下の子供は５００万人が死亡し、1億1200万人が産科合併症、たとえば産後出血、敗血症、子癇発作で苦しんでいます。重要なのは、これらはすべて予防可能である、ということです。
COVID-19はこの問題をさらに悪化させ、いままで何十年もかけて積み上げてきたものを後退させようとしています。Barbara Chmielewskaのシステマチックレビューとメタアナリシスによると、死産は２８％のリスク上昇、母体死亡は３７％、子宮外妊娠の破裂症例にいたっては５８１％の上昇という驚くべき結果です。原因として考えられるのは、受診率の低下や、医療へのアクセスが困難になってしまったことです。つまり、病院にいけば感染するんじゃないかという心配や、交通手段がなくなってしまった、それから本来なら周産期病棟で働いている人たちが、集中治療室などへの配属になってしまった、などの要因が大きいと思われます（前回のブログでこの論文を紹介しています）。同様のことは小児医療についても言えます。9400万人の小児が麻疹ワクチン接種の機会を逃しています。そして、2020年には、子供の低栄養と痩せは２０１９年よりもさらに６７０万人も増えるだろうと予想されています。
資金をMNCHに向けるのに障害となっているものはなんでしょうか。一つは、MNCHへの投資が結果を出すためには長期にわたるため、短期的な結果を望む政策決定者にはインセンティブが小さい、というものです。また細分化された専門性も問題です。同じ問題に対処するために、細分化されたそれぞれのセクターが資金獲得競争をしているため、効率が悪い。アカウンタビリティは、いつもながら問題となります。誰かがリーダーシップをとって責任を取らないと、結果を出すような活動は生まれません。
短期的には、我々、国際保健専門家は、政治家たちのタイムフレームでMNCHへの投資を策定すべきです。たとえば、３－5年で何が達成できるのか、とか。Linda Richter (University of the Witwatersrand) は、政策により影響を受ける人々の意見こそ最も反映されるようにしなくてはならない。なぜなら変化への最も大きな原動力になるから、と述べています。
Agnes Binagwaho (University of Global Health Equity) はルワンダの事例を紹介しています。コミュニテイヘルスワーカーや村落の人々自体が意思決定に重要な役割を果たしました。そしてそれは結果として、医療サービスがが文化的に受け入れられ、医療サービスへの信頼につながりました。また、Sue Kildeaたちが示したように、オーストラリアのファーストネーションの人々が、自分たちのコミュニティでの分娩の主導権を獲得した結果、３８％も早産率が下がりました。これは、いままでのMNCHのモデルのように、中央に医療資源を集中的に投資するスタイルから、末端へdecentralizationすることの潜在的な価値を示しています。
投資の必要性は明らかです。我々のヘルスシステムを強化してさらに変化させること、このことが最も即効性のあるMNCHを改善する方法でしょう。しかし、この方法は、サービスの受けてが参加して初めて効果的となります。
そのコストは、政府、慈善団体、国際機関、私企業によって分担されるべきであり、このグループは変化に対して責任を持つべきである。COVID－１９はいままで積み重ねてきた成果を後戻りさせたけど、我々はすべてを失ったわけではありません。ヘルスシステムをより公平なものとして再構築する議論の中心に、このMNCHを置かなければいけません。いまこそ投資すべき時です。
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