破水後の子宮内感染を診断する。 ベッドサイドでできる子宮内感染検査

周産期

こんにちは。

破水した妊婦さんから経膣、経頸管的に採取した羊水中のIL-8をベッドサイドで調べることで、子宮内感染を診断できるかもしれない、とする韓国からの論文が2020年9月のAmerican Journal of Obstetrics and Gynecology オンラインファーストに掲載されました(こちら)。

破水とは

妊娠中の赤ちゃんは、子宮の中で膜に包まれて生活しています。その膜の中は、羊水という液体で満たされています。

実は、この羊水は赤ちゃんのおしっこが主成分です。赤ちゃんは自分のおしっこを飲んで、またおしっこを出す、という生活をお母さんのお腹の中で繰り返しています。

さて、この赤ちゃんを包んでいる膜は、陣痛がきて、子宮口が開大してもう産まれる!!というときに破れます。これを適時破水といいます。

しかし、このような状態になる前に膜が破れてしまうことがあります。これを前期破水といいます。前期とは、陣痛がきて赤ちゃんが産まれそうになる前、という意味ですね。

赤ちゃんを包んでいる膜は、外界からばい菌が侵入してきて赤ちゃんに感染してしまうことも防いでいます。破水してしてしまうとこの膜が破れていますので、ばい菌が子宮内に侵入してきます。

これを子宮内感染といいます。

赤ちゃんも感染すれば重篤になりますが、お母さんはもっと大変です。子宮の中は、すなわちお母さんの体の中ですから、あっという間にお母さんの体中にばい菌が広がってしまいます。

この状態を敗血症といいます。医学が進歩して、いい薬がいつでも手に入る日本ですが、その日本でもまだまだこの敗血症というのは、治療が難しい病態の一つです。

理事長がいる周産期母子医療センターのようなところでは、予定日までまだ1ヶ月も2ヶ月もあるような早い週数で破水してしまう症例が救急車で搬送されてきます。

ジレンマなのは、子宮内感染がある場合は一刻も早く赤ちゃんをお腹の外に出して、感染が重篤になるのを防がないといけません。しかし、もし赤ちゃんがとても未熟であれば、できるだけお母さんのお腹の中で成熟してもらったほうがいいこともあります。ただその場合は、子宮内感染がないことが前提です。

やっかいなのは、子宮内感染を正確に診断する方法がまだない、ということです。

お母さんのお腹に針をさして、子宮内から羊水を採取して検査する方法があるのですが、すぐに結果がでません。しかも、お母さんのお腹に針をさすため、かなり侵襲性の高い検査になってしまいます。

お母さんが発熱をしたり、陣痛がきたりするのは、子宮内感染を最も疑う所見なのですが、その頃には、もうすでにばい菌がお母さんの体の中に入っている状態であることが多く、手遅れに近い状態になってしまいます。

そこで、今回の研究では、あまり侵襲性が高くない方法で、経膣経頸管的に羊水を採取して、その中の物質(IL-8)を調べることにより子宮内感染の有無を診断できないか、という目的で行われました。

今回の研究は、後方視的コホート研究になります。期間は、2011年10月から2017年4月まで。対象としたのは、単胎で前期破水(preterm prelabor rupture of the membranes;16-35週)の症例です。経腹的な羊水穿刺をおこなった24時間以内に、経頸管的に羊水を採取しています。

経腹的羊水穿刺により採取した羊水は、細菌培養(マイコプラズマも)、白血球数を調べています。羊水中の感染の診断は、細菌やマイコプラズマが見つかった場合としています。羊水中の炎症反応陽性は、羊水中のmatrix metalloproteinase-8 が上昇していた場合(>23 ng/ mL )としています。こののmatrix metalloproteinase-8 が上昇していると、子宮内感染している場合が多く、胎児の予後が悪くなる、という研究結果は結構あります。

経頸管的に採取された羊水は、ベッドサイドでInterleukin-8 (IL-8)を検査します。

今回の目的は、この経頸管的に採取された羊水中のIL-8を調べることで、羊水中の炎症反応をどれだけ診断できるか、を調べています。

経頸管的に羊水を採取するデバイスですが、尿道カテーテルのようなものの先端にバルーンが付いていて、こちら側を頸管内に挿入して羊水を採取します。カテーテルの反対側に、羊水を採取するシリンジをつけて採取するみたいです。

採取した羊水は、専用のベッドサイド計測器で計測します。羊水100μℓに、バッファー100μℓを加えて、この溶液をカートリッジに流し込み、機械に入れます。15分ほどで、IL-8濃度がスクリーンに表示される、というものらしいです。

羊水採取用のカテーテルとこの検査機械はどちらも韓国製です。

結果

111人の妊婦さんを対象に解析しています。

この111人の破水した症例の中で、羊水中の炎症反応陽性を認めたのは、51.4%(57/111)でした。

また羊水中に細菌やマイコプラズマが認められたのは、40.5% (45/111)でした。 

経頸管採取した羊水中のIL-8が上昇していた場合(>9.5 ng/mL)、羊水中の炎症反応陽性をみつける感度は 98% (95% confidence interval, 91ー99.96%)、特異度 74% (95% confidence interval, 60ー85%), 陽性的中立 80% (95% confidence interval, 72ー86%) 、陰性的中立 98% (95% confidence interval, 85ー99.6%), そして陰性尤度比 0.02 (95% confidence interval, 0.003ー0.17)でした。

ポイントとしては、破水と診断された人で、この検査をうけて陽性だった人が、本当に羊水に炎症がある(あるいは感染がある)確率が80%、この検査をうけて陰性だった人が、本当に羊水感染がなかった確率が98%だった、ということになります。

つぎに、この方法と、羊水中の白血球の数を調べる方法とを比較しています。

こちらも、羊水中の白血球の数をしらべるよりは、羊水中の感染/炎症を見つける感度が高かった(頸管羊水検査=98% [95% confidence interval, 91e99.96%] vs 白血球検査=84% [95% confidence interval, 72e93%]; P<.05 )としています。でも、特異度やその他は有意差ありませんでした。

今回の結果が有用だと思えるのは、陰性的中率がたかくて、陰性尤度比が低いので、もしこの検査で陰性だったら、羊水の中で炎症反応は高くないかも、と考えられることです。

この検査で陰性だったらひとまず、様子見れるってことですかね。

今までは、破水症例の感染を確定的に診断するには、経腹的に針を子宮の中まで刺して、羊水採取してみないとわかりませんでした。

でも、この検査で陰性なら、侵襲的な検査を回避することができるのでは、と著者たちは言っています。

確かに、患者さんにあまり負担にならずに、しかもベッドサイドですぐわかる、という検査が一番いいと思います。

このような、ベッドサイドでできる簡単な検査キットを日本でも開発して欲しいものです。

きょうはこのへんで。

コメント

タイトルとURLをコピーしました