正常高値血圧(120-129/80ー89mmHg)あるいは、高値血圧(130-139/80mmHg)の妊婦でも、正常血圧(収縮期血圧<120mmHgかつ拡張期血圧<80mmHg)の妊婦と比較すると、妊娠高血圧腎症、早産などのリスクが高かったとするオーストラリアの研究結果が、2020年6月のAmerican Journal of Obstetrics and Gynecologyに掲載されました(こちら)。
血圧の定義
妊娠中でも高血圧の定義は、一般的な成人の定義と同じです。
収縮期血圧140mmHg以上または拡張期血圧90mmHg以上を高血圧と定義します。
ところが最近、定義がもっと細かくなりました。
厚生労働省のホームページを見ると、成人の血圧を以下のように分類しています。
となっています。なんと、130/80mmHg台でも高値血圧と診断されてしまうのです。
「高血圧」ではなくて、「高値血圧」ですが。。。
むかしは、収縮期血圧140mmHg、拡張期血圧90mmHgに届かなければ正常と言われていたのが、やはり動脈硬化などのリスクが上昇するということで、こういう分類になりました。血圧が130mmHg台でも、要注意ということです。
しかし、産科の疾患である、妊娠高血圧症候群と診断するためには、140/90mmHgを満たす必要があります。
ここまでいかなくても、正常範囲より血圧が高い妊婦さんたちは、特に注意しなくてもほんとにいいの??
ということで、今回の研究となりました。
正常高値血圧でもやっぱりリスクは高かった
アメリカ循環器学会では、以下のように高血圧を定義しています。
- 正常 収縮期血圧<120mmHg/拡張期血圧<80mmHg
- 血圧上昇 収縮期血圧120−129/拡張期血圧<80mmHg
- ステージI 収縮期血圧130ー139mmHg/拡張期血圧80ー89mmHg
- ステージII 収縮期血圧>140mmHg/拡張期血圧>90mmHg
今回の研究では、正常血圧妊婦と、血圧上昇群、ステージI群、ステージII群とを比較しているのですが、ここでは、血圧上昇群とステージI群、つまり日本でいう正常高値血圧だった妊婦さんと高値血圧だった妊婦さんを取り上げます。
研究は、後ろ向きコホート研究で、2016年1月1日から2018年7月31日までMonash Health というメルボルン大学のネットワーク病院での分娩記録からデータを抽出しています。
ちなみに、このネットワーク病院群で年間9000件のお産を取り扱っているそう。めちゃでかいですね。
対象者として、多胎、胎児奇形があった場合、あるいは血圧の記録がない症例は除外しています。それ以外はすべて対象として、全部で18,243症例を解析しています。
血圧測定は、水銀計を使用。20週前、20-24週、28-32週、34ー36週の血圧データを使用しています。
評価項目は、妊娠高血圧腎症の発症率、早産率などです。
結果は、34-36週に正常高値(120-129/80mmHg)だった妊婦さんが妊娠高血圧腎症になるリスクは、正常血圧だった人に比べると、2倍くらい高かったとのこと(Adjusted risk ratio(ARR) 2.45 95%CI1.74ー3.44)。同様に34ー36週に高値血圧(130-139/80-89mmHg)だった妊婦さんは、なんと6倍のリスクでした(ARR 6.6 95%CI4.98ー8.73)。
早産のリスクに関して、血圧が高値血圧(130-139/80-89mmHg)だった妊婦さんは、どの週数でも早産リスクは高く、28-32週で血圧が高かった場合は1.69倍のリスクでした。 (95%CI1.43ー2.01)。
在胎週数に対して小さい赤ちゃんが生まれるリスクは、高血圧(>140/>90mmHg)と診断されれば高くなりましたが、正常高値血圧(120-129/80mmHg)および高値血圧(130-139/80-89mmHg)では差がありませんでした。
著者らは、平均血圧(mean Blood Pressure)を横軸に、妊娠高血圧腎症発症リスクならびに早産リスクを縦軸にとってグラフ化していますが、平均血圧が上昇するとそれらのリスクはきれいな右肩上がりのグラフになります。
つまり血圧上昇の影響は、血圧が140/90mmHgを超えた瞬間に突然現れるのではなく、正常血圧から逸脱するにつれて、連続的にリスクが増えていくことを示しています。
確かに、普段の日常診療では、血圧が130/80mmHgを超えてきたら要注意というのは肌では実感していましたが、実際にデータで見せられると納得します。
外来で正常血圧から上昇し始めている妊婦さんが来たら、血圧がまだ140/90mmHg未満だから大丈夫だよ、とはもう言えないってことですね。
日本のガイドラインでは、まだ正常範囲を逸脱しはじめたけどまだ診断するには早い妊婦さんの取り扱いについて、特にまだ何も決まっていないみたいです。
日本人を対象にした研究が望まれます。
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