WHOの「Every Newborn Action Plan 2019レポート」を読む

国際保健

こんにちは。

Every Newborn Action Plan (ENAP)をご存知でしょうか。

2014年のWHO総会で194各国によって採択された、2030年に達成すべき新生児死亡と死産削減の目標を定めたものです。

今、国際社会の母子保健分野で活動しているプレーヤーたち(WHO、ユニセフ、Save the ChidrenなどのNGOたち)が注目しているのが、「赤ちゃん」です。

それはなぜか。

5歳までのこどもの死亡は、この30年で大幅に改善されました。しかし、その結果、1990年には40%程度だった新生児死亡が全体に占める割合が、2018年には47%と上昇してきています。

実は、新生児死亡率自体もこの30年で半減しています。しかし、それでも、子供の命が一番危険に晒されるのは、実は感染症や交通事故ではなく、分娩の時と生まれてから1ヶ月目までにおこる障害だ、という事実は依然として変わりません。

しかも新生児死亡の98%は中低所得国で起こっていて、その78%はサハラ以南のアフリカ諸国で起こっているという、地域間格差がもっとも激しい指標でもあります。

死産に関しては、2017年一年で200万件あったと推定されますが、その98%はやはり中低所得国でおこっています。特徴的なのは、死産の原因がおそらく難産にある、という点です。

というのも、これら死産の約半数は分娩中に亡くなっているからです。適切に分娩中に胎児をモニターできる能力があれば避けられたかもしれない死産があまりにも多いことを示唆しています。

これらのデータを背景として、ENAPでは2つの目標を掲げています。まず新生児死亡率の削減です。これは2030年までに新生児死亡率を12/1000出生にすることを目標としています。そして、死産率は、2030年までに12/1000出生が目標です。

2019年のリポート

2014年にスタートしたENAPですが、現状はどうなのでしょうか。新生児死亡率や死産率は順調に削減されているのでしょうか。

2019年のリポートによりますと、現在のままの新生児死亡率削減ペースでは、32%の国で2030年までに目標を達成することは不可能だろうと述べています。死産率にいたっては、59%が達成困難だろうとのことです。

そこで、レポートでは、上記の目標達成のために2025年までに改善すべき4つの指標を定めています。すくなくともこの4つの指標の改善なくしては、目標達成などあり得ないだろう、ということです。

4つの指標とは、

1)4回以上の妊婦検診受診:世界の90%以上の妊婦が4回以上の妊婦検診を受ける

2)助産師による分娩介助:世界の90%以上の分娩が助産師により介助される

3)産後2日目までの産後ケア:80%以上の人が産後2日までに産後ケアを受ける。

4)小さく生まれた赤ちゃんあるいは重症の赤ちゃんが入院するレベル2施設を80%以上の国が整備する。

1から3番目は、まあわかりますね。では、4番目のレベル2の施設とは、どんな施設のことを指しているのでしょうか。

レベル1から3までの施設は以下の通りです。

レベル1 出生後ただちに行われるケア(例えば臍帯結紮を遅らせる、皮膚乾燥、早期母子皮膚接触)、新生児蘇生、早期母乳の開始など。新生児搬送が必要な児を判別でき、HIVなどの母子感染を防ぐことができる

レベル2 体温管理(2kg以下の早産児で状態が安定していればカンガルーケアを実施)、経口摂取の補助ができる、点滴ができる、酸素投与できる、敗血症の診断ができて抗生剤を投与できる、黄疸の診断ができて光線療法ができる、新生児脳症の診断と管理ができる、先天奇形の診断ができ、適切な施設に搬送できる

新生児呼吸窮迫症候群(RDS)の新生児に対して、CPAPなどの一時的なケアができる。交換輸血ができる。

レベル3 人工呼吸器を扱える。中心静脈栄養ができる。先天奇形の治療ができる。未熟児網膜症の治療ができる。

となっています。

うーん、なんかこのレベルわけ、ちょっとチグハグなような気がしないでもないですが。。。

先天奇形の診断ができるレベルをレベル2に求めていますけど、先天性心疾患を含んでいるのでしょうか??そうなると、超音波診断装置とか必要になってきます。たしかに経皮的に酸素飽和度をみる方法の有効性も言われていますが。。。

交換輸血って。。。輸血自体手に入れるのが難しいのに、と思ってしまうのですが。。

また、RDSの治療は、薬(サーファクタント)と挿管できる設備と道具があれば、人工呼吸器がなくても治療可能です。CPAPは必要ですが。

さらに死産を減らす方法の具体的な内容に関して、あまり言及がありません。

たしかに助産師による分娩介助は大切だと思いますが、それだけで果たしてどれだけの死産を減らせるのか疑問です。

分娩中の胎児死亡が多い、との言及はリポートの中にあるのですが、それでは胎児心拍陣痛図計(CTG)を使って胎児心拍をモニターすればいいのでは、と日本の医療にどっぷりつかっている理事長なんかは思ってしまいます。

しかし2017年のコクランレビューではCTGが死産を減らすという効果は認めませんでした(Alfirevic, Z., Devane, D., Gyte, G. M., et al. (2017). “Continuous cardiotocography (CTG) as a form of electronic fetal monitoring (EFM) for fetal assessment during labour.” Cochrane Database Syst Rev 2: CD006066.)。

相変わらずWHOやユニセフが出す報告書は、ファンシーな開発用語ばっかりで内容がまったく具体的でないのですが、しかしそれでも、だいたい彼らが求めている内容というのがわかります。

今後は、レベル2の施設をたくさん作ることが、中低所得国の母子保健医療では求められてくるのでは、と予想されます。

これは支援をする我々にとっても知っておいて損はないのでは、と思います。

今日はこのへんで。

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